From Boston Apr.2008
Visualized Information

Edward Tufte氏の"Presenting data and information" セミナーに参加しました。Tufte氏は「データ表現におけるレオナルド・ダ・
ビンチ」と評される情報デザインの権威であり、エール大学名誉教授です。エール大学ではstatistical evidence, information design,
interface designの講義を受け持っていたようです。このセミナーは全米の主要都市で開催されており、ボストンでは一年に一度、
数日間開催されています。私が参加した日はざっと数えて250名以上が参加しており、大盛況でした。Tufte氏は、ラジオの
コメンテーターをしたり、New York timesに記事を書いたりしていたようで(隣の人の話では)、アメリカでの知名度はとても高いようです。
アーティストとしての活動も行っており、Tufte氏自身の作品の紹介(彫刻でした)もありました。Edward Tufte氏のホームページはこちらです。

https://www.edwardtufte.com/tufte/index

セミナーは主に、多様な複数の情報(データ)の視覚化に関する内容でした。
複数の情報をうまく伝えるためには図を効果的に使用し、適切な情報量で、
色を効果的に用いること、が大切だということを、いくつもの例を参考にして
説明がありました。



複数の情報が一枚の図の上にきれいに収まっているいい例として “it maybe the best statistical graphic ever drawn”として紹介されたのが、以下の図 “NAPOLEON'S MARCH to Moscow” (Charles Joseph Minard作)です。

この図には、ナポレオンがモスクワに侵攻した時の、「兵力の変化」、「戦場の場所」、「侵攻経路(攻め方)」、「気温(帰路)」の
情報が一目でわかるようにまとめられています。 図の左端はポーランドとロシアの境界地点、右上端がモスクワ。帯の幅は兵力の大きさを示しており、茶色がモスクワへ向う時の道程、黒い帯がモスクワから戻る時の道程です。 兵士数が数字でも記載されています。 帰路の気温は下方に記載されています。

この一枚の図から 「422,000兵でポーランドとロシアの境界地点を出発したナポレオン軍は、途中Wilna, Smolenskの戦いなどで
兵力を失い、モスクワに到着した時は100,000兵となっていた。帰路、寒さなどでさらに兵士を失い、戻った時には10,000兵にまで減っていた」 ということが読み取れます。フランス軍のモスクワ侵攻行程がとても厳しいものであったことがわかります。

配布されたTufte氏の著作本には、様々なスタイルの図が載っており、データや情報を効果的に見せるヒントが書かれています。 Public Health関連の図もいくつかあり、日本の図表も数枚紹介されました。その中の一つがこの図です(当日会場に展示してあったものを撮影)。

セミナーの内容は、全体的にデザインという視点からの視覚化に重点を置いたお話でした。細かいことはいろいろありますが、基本的には、文字に頼らず図表を効果的に使う、適当な情報量を選ぶ、色を上手に効果的に使う、ということでした。


また、情報を、映像や動画を用いて視覚化する試みも広がっています。
(以下の記載内容は、すでにご存知の方もいらっしゃると思います、 ご参考まで。)

公衆衛生の分野では、スウェーデンのKarolinska Institute、International healthのHans Rosling教授が開発した、データを視覚的に示すソフトがあります。それらは、Rosling教授が創立したnon-profit ventureの“Gapminder”のホームページ(http://gapminder.org/) で見ることができます。
ホームページにある右のグラフは、ある年の一人あたりの収入(経済状況)と平均
余命について、国別に表したものです。一つのマルがある国をあらわし、マルの大きさが人口を、色が地域(HP上に記載あり)を表します。右上端の赤いマルが日本です。左下のPlayボタンを押すと、1950年から2005年まで経時的にそれぞれの
マルが動き、データの推移が視覚的に示されます。経済成長に伴い平均余命も伸びていること(マルが左下から右上に動いていく)、地域による差があること(同じ色のマルが近くに固まっている)がよくわかります。

このグラフの他にも、複数のデータの分布、経時的な推移とそのスピードを視覚的に示すグラフやビデオがあり、GapminderのHPで見ることができます。 また、それらを使用して行ったRosling教授の講義やプレゼンテーションは以下のリンクから見ることができます。 示されているデータの経時的な動き、流れがよくわかり、内容を理解しやすいと思われます。 インパクトのあるレクチャーだと思います。
http://www.gapminder.org/video/talks/
http://youtube.com/watch?v=RUwS1uAdUcI

生物学の分野では、実験の手法やプロセスを動画で掲載するJournal of Visualized Experiments (JoVE)
http://www.jove.com/index/Main.stp があります。 2006年12月に創刊された、新しいタイプのジャーナルです。文字だけでは伝わりにくかった実験のプロセスを映像で示すことで、実験の技術を正確に伝えることができ、それにより、実験の再現性を高めること、および 実験手法の習得を容易にすること、を目的としています。JoVEではSpringerなどの大手ジャーナルとも提携して、掲載論文の実験プロセスを動画で配信しています。 著名な研究者へのインタビュービデオもあります。今後はPubMedへの登録も計画しているようです。日本からは、
自然科学研究機構・生理学研究所(愛知県岡崎市)が提携し、日本の国立大から集めた医学研究成果などを映像で配信できるようになったということです。



4月下旬にボストンでも桜が満開になりました。日本から友好のしるしとして贈られた桜
(その記念碑が上部右から2つ目の写真)がとても綺麗でした。